相対相対


 

 あなたのことが、ずっと前から。


「好きでした」

 しょっぱなから噛んだ。もうだめだ。安らかに死のう。

 内心頭を抱えている鉄面皮と巷で絶賛噂中の私をよそに、しばらく彼は打ち続けていた書類とディスプレイから顔を上げた。

「過去形なの?」

 まさか。この飛び出さんくらいの愛をわざわざ自ら粉砕しにきたのですよ。すりこぎください。

「好きですが」

「理由がいるの?」

 もちろん理由はありますが。愛に理屈は必要ですか? 貴賤があるというのですか? ク〇ラにもハイ〇にも同じように山の頂きで愛を叫ぶ資格はありましょうて。

「好きなのか」

「疑問視してるの?」

 いえ、そんなこと考えもしていませんでした。ぞっこんラヴですよ、ええ。ネタ古いなこれ。

「好きですか」

「再確認してるの?」

 しなくてもいいことですがね。私の愛は不滅ですのことよ。たとえここで朽ちたとしても、どこかで灰となり吹き飛ばされ消え去ったとしても、ね。なくなってるじゃねぇか、おい。

 もうだめだ。とにかく今日はだめだ。いいとこごまかして……と卓上のカレンダーを見れば、今日は世界的に騙くらかしても怒られない日であった。平日だから忘れていた。これを使わぬ間抜けではない。

「嘘ですよ」

「嘘をついたの?」

 嘘ではありません。しかし仕切り直しをだな。

「嘘をついていいのは午前中だけらしいよ?」

「そうですか」

 嘘ではありません。しかし嘘にしておきたいのです。ここぞというときのために、ここは本気の嘘をお見せしようではないですか。

「好きでした?」

「過去形ではありません」

「好きですが?」

「理由がないわけではありません」

「好きなのか?」

「疑問視してるわけではありません」

「好きですか?」

「再確認してるわけではありません」

「嘘じゃないの?」

「嘘はついてません」

「その言葉は嘘じゃないの?」

「嘘じゃないです本気です」

「好きでした?」

「好きですが」

「好きなのか?」

「好きですよ」

「はい、こちらも好きですよ?」

 両想いですね。いい子なのでもうちょっと待っていてください。

 そう言うと彼は再びディスプレイへと向き直った。

 しかしその後、思い返したら居たたまれなくなって部屋から脱出したのを彼に捕獲されましたがなにか。

 


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