つけをはじめよう


 

 
 こんにちは
 ありがとう
 すみません
 さようなら


 五文字。
 五文字だ。
 その五文字が言えない人間がどれだけいることだろう。
 どれだけ大きくなろうとも。
 どれだけ大人になろうとも。
 それが言えなきゃ、なんにも成長してないのにさ。

「こんにちは」

 あなたはだれ
 なまえはなんていうの
 としはいくつ
 どうしてここにいるの

「………」

 顔を上げたのはそう年の変わらないだろう男の子。
 どこかのパーティーで見た、シャンデリアの欠片みたいな。
 光に反射して綺麗なはずなのに、どこか冷たいガラスのような目をした男の子。
 夕暮れの、太陽は向こう側へと落ちかけて。
 夜の匂いが強くなった公園の端のブランコに座ったその子は黙ったまま。

「こんばんは」

 もう夜だからと話し方を変えてみてもその口は動かない。
 モニターの映像のほうがよっぽど動くし話すし反応する。

 にんげんじゃ、ないみたい
 ほんとのにんぎょうみたい

 にょきにょきと、どこか胸の奥から意地悪な気持ちが生まれてきた。
 なんとしてでも、話させよう。
 これ以上、人形なんていらない。

「おしえてくれないなら、かってによぶね」

 ポチ

 それでもいいなら、ワンとないてみなよ

 いやならいやだと言えばいい。
 けれどその男の子は。

「ワン」

 一声、そう鳴いたのだった。


 


 

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