法少女はバケにつき。


 

 魔法少女は闇夜に吼える。


 いまをときめく魔法少女、
午頭花名(ごとうはな)のひみつのお仕事(悪☆抹殺)の時間は大体が夜である。
 人々が寝静まった街で悪と向き合い戦うのだ。
 日中は学生として真面目に勉学を励み、夜間は人々の前に姿を見せない謎の魔法少女として君臨する。
 そんな彼女は夕焼けに染まるカフェテラスで、ひとり思案に暮れていた。

「ハロウィンか…」

 本日は十月の最終日。
 海外から輸入された祭が街全体で、いたるところで開催されていた。
 オレンジ色の布にコウモリやカボチャが描かれた旗が店先に掲げてあればそれが参加の証。
 その店にはオバケと呼ぶには恐ろしさや迫力のない姿に仮装した子供たちが「トリックオアトリート!」とお菓子をねだりに集団で来るのである。
 これ自体は数年前から開催されていることだし、花名も去年までは自分が子供の頃はなかったなあ、で済ませていた。
 しかし予想外にこの「まちなかハロウィン」は行われる時間が遅い。
 こういうのは安全面を考慮して昼間にやるべきなのではないのか。
 たしかにオバケが真っ昼間に出歩くより夜のほうが様にはなるだろうが。
 カボチャやドクロに見立てた明かりを手に、夜の街中をぞろぞろと子供が練り歩く。
 有能な協会からの刺客による情報で、本日は花名の相手である悪の組織『ブラック★フォーチュン』の活動日だとわかっている。
 それを阻止するために出動しないわけにはいかない。いかないが。

「あの格好を子供たちに見られるわけには…」

 魔法少女には代々受け継がれるものがある。
 そのひとつが魔女っ子スタイル。
 特別な魔力の錬成によって出来たその服や小物、武器はどれだけ華美だろうが布面積が少なかろうが強靭だ。
 通常なら即死する攻撃を受けても耐え抜く強さを秘めている。
 緊急時にはフォルムを変えてさらにパワーアップをしたりするという、まさに魔法の服であり魔法少女にはかかせないものだ。
 それを脱いでは戦うことは――花名になら出来るがそこはそっと横に置いて。
『ふぇありーぴんく☆』の魔女っ子スタイルは乙女の夢と希望に満ち溢れたデザインとなっている。

 ピンクのふわふわなボリュームのあるツインテールは幅広のフリルにピンクなリボンで結ばれ。
 そのリボンからは白く長い垂れたうさ耳が動くたびに揺れ、もふもふな丸いしっぽがドロワーズからちらりとのぞく。
 リボンと同色のツインワンピースは光に透かすと花の刺繍が施され、これでもかというほどのフリルと繊細なレースに縁取られていた。
 武器はぴるぴると振るたびに無意味に鳴る、ハートに白い天使のような羽がついたピンクのステッキ。

 完璧である。
 ある意味、完璧である。
 最初にこの服装を考えた初代は大層頭があれでそれでこうだったに違いない。
 この時代の萌えの最先端を百年も前にいっていたのだ。
 着る人物の力を最大限に引き出す魔法の服、魔女っ子スタイル。
 それは、少女が着るからこそ許されるものである。
 少女、の定義はいくつからいくつまでなのか。
 一説によれば少女は七歳から十八歳までの女の子を指すらしい。
 幼女は一歳を過ぎたころから小学校入学くらいまで、そして婦人は二十歳以上を指すそうで。
 花名は現在大学一年生、誕生日は来ているので十九才。
 この一説を前提にすると花名は少女とはいえず、かといって婦人ともいえず。
 小学生の頃ならいざ知らず、この歳になって自分から着たいとは絶対に思えない。
 中途半端なお年頃の魔法少女は可愛すぎる服装を着て人々の前に戦うことを忌避していた。
 万が一、写真にでも撮られてネットにでも流されたら一生ものの恥である。
 ちらりと、今日はこのまま家に帰ってしまおうかとも考えた。
 しかしそれによってもたらされる災害はいかほどのものか。

 自分か人々か。

 そんなものは最初から花名の中では片方に傾いて動かない。
 動かないが、悩むくらいは自由である。
 そうして花名は街が夕闇に沈むのを待って――

「そうか、仮装か!」

 花名はある考えに思い当たった。






 空に昇るは細い三日月。
 いつもなら早々に店じまいをしてしまっているはずの街は今日だけ全体的に明るかった。

「ヒャッハー! ガキがたくさんいるぜぇ!」

「支店長、声が大きいです」

「支店長って言うな! 俺様はモヒカンだ!」

「はっモヒカン様、申し訳ありません!」

 そう高くもない廃ビルの錆びた螺旋階段で、袖無しのトゲ付き革ジャンを裸に一枚羽織った男はうしろに控えていた黒服にやはり大声で返した。
 まるで鶏のトサカのような赤いモヒカンがビル風に大きく揺れている。
 なんだなんだと道行く人々はそちらへと目を向けた。なんかいた。
 季節は秋。あらゆる意味で寒い世紀末な格好をした痛いやつがいると、何人かは写メを撮りだす始末である。

「いいか、今回はあのガキらを誘拐して身代金をいただくぞ!」

 悪の組織といえ、組合員は人間だ。
 人間には衣、食、住が必要不可欠。
 金がなくては生きてはいけないご時世である。

「ちっせえ」

「規模ちっせえぞ世紀末ー」

「だから雑魚なんだよモヒカン野郎」

 やいのやいの。
 これが刃物を持った通り魔相手ならば逃げ惑うだろうが、なんせ相手はモヒカンである。雑魚臭の漂うモヒカンである。
 言うだけならタダだしと大衆は肌寒そうなモヒカンに野次を飛ばす。

「うっせえ! モブ共は黙ってろ!」

 モヒカンがそう叫ぶやいなや、突如として地面から拳大の炎が噴き出した。
 噴き出した炎はそのまま空中に火の玉として浮かび上がり、人々の間をすり抜ける。

「キャアアアア!」

 一拍をおいて、ようやく理解した何人かが甲高い声を上げる。
 その声にようやく子供たちの集団のひとつが気づいて顔を上げた。

「なあに、これ…」

 自分たちの手元を照らす明かりよりも明るい火の玉が、いつの間にか子供たちの周りをぐるりと取り囲んでいる。

「火炎のモヒカン様とは俺様のことだぜぇ! ケガしたくないなら動くんじゃね」

「ふっざけんな!!!」

 得意気に自分の周りにも火の玉を浮かべたモヒカンの目の前にピンク色の大鎌が突き刺さる。
 はらり、と自慢のモヒカンの半分が削られて地面へと落ちた。

「俺の、髪がー!」

「ちっ手元が狂った」

 アスファルトに深々と刺さった大鎌の前にふわりと大きな影がかかる。
 その歪んだ影の先にいる人物を子供たちはたしかに見た。
 大鎌を引き抜き、悲鳴をあげているモヒカンの前に立つその存在を。

「ジャックランタンだ…!」

「本物のオバケだ!」

 大きなカボチャ頭。地面に付くほどに長くはためく黒いマント。そして大鎌。
 命を狩りとらんと大鎌を振り回す架空の存在に一部は悲鳴を、一部は気絶し、一部は喜声を上げた。






「あーあ、なにやってんだか」

 さて、それのはるか上空。
 すこし離れたビルの屋上から様子を見ていた
美逆万里(みさかばんり)はそう呟いた。
 言葉とは裏腹に表情はどこか楽しげですらある。

 街は火の粉を撒き散らす男よりも、突然現れたカボチャ頭によって混乱の渦中にいた。
 怒号、悲鳴、轟音。
 これは子供たちにトラウマとして心のなかに長く残ることになるだろう。
 そりゃそうだ。考えてもみてほしい。
 火の粉男はどう考えても小物臭のする雑魚である。
 警察なり魔法少女なりが現れて成敗するという図式が彼らの中では最終的にはあるのだ。
 しかし現れたのはカボチャ頭の黒マント。しかもすべてを切り裂く大鎌を持って。
 奇しくも、本日はハロウィン。

「火の粉男にジャックランタン、ね。まーお約束的な」

 ジャックランタン、とは海外に伝わる鬼火のような存在だ。
 ジャックランタンは火の玉の姿だったり、カボチャ頭の男の姿であらわれることもあるらしい。
 生きている人間よりもオバケが怖いなんて、といつもの自分ならそう思うのだが。
 目の前で威圧感のあるカボチャ頭が大鎌を振っているのである。周囲には火の玉。逃げられないままに繰り広げられる地獄絵図。

「姿を変化させるくらい、魔法ですぐに出来るのに」

 その考えは浮かばなかったのか、選ばなかったのか。
 花名の考えは、なんとなく万里にはわかっていた。
 わかってはいたが、黙っていた。好奇心に負けて。
 どうする気だろうかと、花名を黙って眺めていたのである。
 花名はたまに目撃されることはあっても、ここまで大人数のいるところで戦うことはまずなかった。
 自分の姿を恥じているあの魔法少女は、どうするのだろうか。

 自分か人々か。

 結果はこれだ。
 自分の腐った性根とはまる反対の彼女を万里は誇らしく思う。
 たとえそれが街中を恐怖に陥れることになっているとしても。

「それでこそ花名だ」

 最初から、勝負の見えていた戦いは相手の「シャオ!」という謎の叫びと共に終わった。
 全力疾走で世紀末のカボチャ頭はその場から逃げていく。

「むかえに行くとしますか」

 どこかで頭を打ち付けているだろう魔法少女を。
 本当は、このあとに「Trick or Treat」とか言ってからかってみようとも思ったが。
 それよりもどこかのお菓子を自分で買って渡すとしよう。






 後日、花名は『恐怖!ジャックランタンは実在した!』という見出しの雑誌を本屋で発見してさらに凹むことになる。

 


 

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