法少女へ婚中につき。


 

 魔法少女とは―――

 
 それは、世に蔓延る悪を倒すために生まれた全くの新しい力を授かった存在のことである。
 いわゆるバブル発生とかそういうくくりでみてもらえればいい。
 あれだよ、なんとなく掘った穴からとめどなく金貨が出たらまわりで見てた人も我先にと掘り出すじゃない。あんな感じ。
 たくさんの魔法少女たちは悪を退け、そして新しく発生する悪を倒す力を次世代へと―――この場合は娘とか孫になるかな、に譲渡する。
 でさ、ボクのお母さんはその魔法少女とやらをやってたんだって、かれこれ三十年も前の話だよ。
 まぁ実の娘の一人だけの孫娘だったから仕方なくだったらしいよ。選択肢皆無ってやつ。
 でさ、これからが本題。
 いま現在、困ったことにある魔法少女の後継が決まらない。
 何故かって?
 簡単に言うとさ、ボクのお母さんに娘が生まれなかったんだよ。
 生まれたのは見事に野郎ばっかり五人も!
 仕方がないから縁戚一同、後継にと女の子を集めたんだけど。
 これがさあ、困ったもんでさあ。
 ねえ、その子が女の子としてあり得ない子だったらどうする?
 ねえ、その子が女の子としての常識を覆したとしたらどうする?
 ボクはね―――

 

 
「オラァアアア!!!」
 
 漆黒の闇に昇るは無欠の月。その影に蠢く大量のナニかはその気合いの入った声にピタリと止まった。

「ようやくきたか魔法少女! おまえの噂は聞いて…うわぁあ!」

「オラッ」

 ガキンッと派手派手しいピンクの大鎌とライブ会場で振られるような光る細身の剣が空中で交差する。
 一歩間違えれば首を刎ねていただろう大鎌を押しきり、後方に飛びすさってくぐもった声で叫んだ。

「いきなり斬りかかってくるとはなんだー!」

「チーフ…じゃないダース・ベ〇ダーさま!」

「ご無事ですかぁチーフ!」

「チーフ…ぐふっ」

「J!? チーフなにが起こ…がぁっ」

「チーフ! なんかJとKがやられました!」

「チーフと呼ぶな! ダース・〇イダーと呼べって言ってるだろ!」

 わらわらと集まる全身黒服の集団は男が事前に仕掛けていた罠に面白いようにかかって自滅していく。

「コンビニかここは」

 呆れたように男は呟いて、ビルの屋上の端に腰掛けつつ下界を見やる。
 普段は「アー」か「イー」としか発言の許されていない理由はここにあると思われた。気が抜けるにもほどがある。
 しかし相対する人影は力を削ぐことなく大鎌を横に振るった。

「敵の口上をいちいち聞いてられるかよ!」

「くっ噂通りの鬼畜な魔法少女だな!」

 迫り来るピンクの塊に片手でバリアを張りつつ、闇色に身を包んだ兜姿の壮年だろう男性は巨大闇魔法を展開させる。
 ビリビリとした地鳴りと共に、頭上に魔方陣が完成した。

「来たれ! 我が眷属!」

「ピギャァアアア!」

 耳障りな鳴き声を漏らしながら現れたのは、巨大な黒々とした翼と鋭い爪をもつ大きな怪鳥。
 兜姿に命令されるよりも早く、人影―――魔法少女を喰らわんと天高く羽ばたいた。

「ちっしかたねぇな!」

 さっきからぴらりんぴらりんと謎の発光をしている大鎌を地面に投げ捨て、胸についている星形のペンダントを掲げる。

「すぺしゃるきゅーとにたすけにきて☆ふぇありーぴんくのだいじなTO・MO・DA・CHI☆」

 鮮やかな煙と光が周囲を包み、現れたのは―――

 その逞しい足は大地を踏み抜き。
 吐き出す息は紫で、その鬣と尾は猛毒の蛇。
 その鋭い眼光は六つあり―――

「首が三つの地獄の猛犬って、おまえそれは!」

「かっこいいだろう。ケルベロスだ」

 そう、魔法少女は言い放った。
 歴代の魔法少女からの伝統服に身を包んだ彼女は―――
 ピンクのふわふわツインテールは幅広のフリルにピンクなリボンで結ばれ可愛らしい。
 垂れた白く長い耳に、もふもふな丸いしっぽがドロワーズからちらりとのぞく。
 リボンと同色のツインワンピースはこれでもかというほどのフリルと繊細なレースに縁取られている。

「き、聞いていた通りのようだな…!」

 そのフリルから伸びる白い手足―――は筋骨隆々。
 さらにいうなら刺繍の凝った襟元からのぞく首元も素敵にふとましい。
 力強い太い眉と、しかめられた瞳の凶悪さ―――

「おまえはどこのゴ〇ゴだー!!!」

 そう、目の前の魔法少女はいうならば世界一のスナイパーが女装を―――しかもかなりあれな感じに着てしまったような格好をしていた。

「その単語は聞き飽きたぜ!」

 立てば仁王、座ればサタン、歩く姿は巨〇兵と称される彼女は―――十階建てのビルよりも大きな使い魔、ドーベルマンによく似た三つの首の猛犬に命令を下した。

「屠ってこい―――めろ☆めろりーな徳川ちゃん!!!」

「なんだその名前は! やめろ! 降りてくるなっうわぁああああ!!!」

「ピギャァアアア!」

「「「グォオオオオ!」」」

 降下する怪鳥に狙いを定めて牙を剥く巨大な猛犬。
 勝負は決まったようなものだった。
 つんざく断末魔に耳をふさいで顔を背け―――男は周囲に眠りの魔法をかけた。

 

 
 戦っている二人には気づかれない地味で静かでかつ強力な広範囲に効く魔法。伏兵として隠れている敵には効果がある。

「花名の戦い方は穴があるよねえ」

 そう男は―――
美逆万里(みさかばんり)は楽しそうに呟いた。

 

 
 彼の母は、三十年、魔法少女をしていた。

 美しい顔立ちと能力を有した少女ではあったが本人は魔法少女になる気はなかった。
 しかし周囲がそれを許さずに嫌々襲名し、三年の月日をかけて悪の組織を倒したあとは親の決めていた魔法使いの家系の男と強制的に結婚。
 その後も魔力の強い跡継ぎを生めと強要されて五人もの子を生み―――その最後に生まれた子も男の子だった。

 それが万里である。

 双方直系の魔法使いの血筋らしく強い魔力と母譲りの冴えた美貌。
 客観的に見て、望まれた人間。

 しかし、周囲の目は冷ややかだった。

『また、男か』

 五人目。
 五番目に生まれた直系の末の子。
 女の子ではなく、男の子。
 その事実だけが万里という存在を否定した。
 
 万里を生んだあと、体調を崩してもう子を生めなくなった母。
 どこに行ってもつきまとう憐れみの視線、嘲り、そして暴力―――は逆に全力で叩き潰した。
 おまえらも男じゃんかと万里を蔑む兄達を地の底に蹴落として最年少で【世界魔法少女協会】の理事のひとりとなった。

 すべてはこの茶番のような魔法少女のシステムを変えてみせようとした結果。
 自分がなれなかった魔法少女を見極めてやろうと。
 そして、万里は出会う。

 奇跡の魔法少女に。

 

 

 実のところ、十代ギリギリである少女というにはちょっとどころか地平線の向こうにスライディング土下座してこいよくらいに無理のある
午頭花名(ごとうはな)を指名せずともまだ他に候補はいた。
 
 花名に説明したように、十代半ばの少女達が軒並み世間に感化されて生娘が少なくなっていようとも、その下に健全たる女子小学生や幼女もいるにはいたのだ。
 しかし、その中であえて万里は花名を選んだ。
 その理由は単純明快。
 ゴミ箱に捨てられていた花名の書類を拾い見て、面白そうだと思ったから。

 
 このガタイに魔法少女の格好はさぞやあれだろうなあー。

 
 特殊で陰湿な家庭で育った万里は性格がひねくれていた。修正不可能なくらいに。
 
 魔法少女など嫌いだった。
 さらにいうなら女という存在も嫌いだった。
 自分を否定するものなどいらないと―――

 

 

 

「ぐあああああ!!!」
 
 焼き鳥と化した怪鳥が兜頭の男に落下していく。
 勝敗は最初から決まっていたようなものだ。
 伏兵は万里が潰してしまって動けやしない。
 ピンクの大鎌を天高く上げ、虹色のオーラに包まれた彼女は渾身の魔法を使った。

「ルンルン☆リンリン☆ツゥルリララッホイ☆はなのいぶきよほしのかけらよらぶりーにふるぱわーまっくすにもっふもふ☆わたしに力を貸して☆…焼き尽くせ諸悪の根元! あいらぶれぼりゅーしょんだおらぁっ!!」

「ぎゃあああああ!!!」

 繰り出す大鎌の光に包まれた世界に、その悪の組織は壊滅した―――

 

 

「おつかれさまー『ふぇありーぴんく☆』怪我はない?」

 瓦礫と化したその場所に正座し、いつものように―――毎度恥ずかしい呪文その他に苛まれて地面に頭突きをかましている花名に近づく。

 実のところ、呪文も衣装も色以外はカスタマイズできた。
 大鎌だって最初は羽のついたステッキだったのを攻撃力が低いと花名が無意識に変えていた。
 どうもレベルが上がったら変わると思っていたらしいが、魔法具というものは持ち主の感情や利便に応じて変化するものなのだ。
 それは衣装や呪文も同じく。
 動きにくいと思えばズボンになっただろうし、長いと感じれば呪文もシンプルなものに変わっただろう。
 花名は魔法少女の常識に疎く、そして万里も聞かれなかったので教えなかった。

 だってそれじゃ、面白くないじゃん。

 でもそれと花名が怪我するのはいただけない。

「こーら。やめようよ花名」

 顔を上げさせて治癒魔法をかける。
 まさか自分が他人に治癒魔法をかける日が来ようとは。誰かさんの内面外面の傷を開く魔法ならもっと得意なんだけど。

 さて、これからが本番だ。

「ねえ、花名はさ」

「なんだ」

 起き上がった花名の目線は標準より高いはずの万里より高い。

「両親を恨んだこと、ある?」

 かつて聞いたことのある質問を、もう一度。

「ワタシは―――」

 万里は両親を恨んだ。
 こんな状況下に置いといて勝手に罵る親を。
 生まれたくて生まれたわけじゃない。

 花名だって、そうだろう。

 華奢とは程遠い外見をした花名は。
 女としては壊滅的な容姿をした花名は。
 ゴ〇ゴだ鬼神だクイーンコングだと呼ばれて育った彼女は目を丸くしてこう言った。

「感謝こそすれ、なぜ恨まねばならない?」

 かつてと同じ言葉を口にした花名はうむ、と大きく頷いた。

「たしかに、このような図体に生まれたのは多少あれだったかもしれない。しかし、だからこそ得たものがあるとワタシは思う。諦めたものも多々あるが、努力をすれば実るものもあるだろう。むしろワタシのような娘を無事に大学生になるまで育ててくれた恩義に報いなければならないと常々感じている」

 あの時と、同じ答えを。

 それは、万里にとっては青天の霹靂のような一言だった。

 あまりにも真っ直ぐで、汚れを知らない心を持つ少女。
 自分と対極の位置にいるその存在に自分は、万里は。

 いつの間にかころりと落ちてしまっていた。

「ねえ、花名」

 だから、その優しさにつけこませてね。

「約束は覚えてる?」

「約束…ああ、あれか」

 敵の親玉を倒したら、万里の願いをひとつ聞いてほしいと。

「まあ、なんだ。聞ける範囲でな」

 照れたように顔を背ける花名に、万里は笑った。

「そうだねえ、聞いてくれるといいんだけど?」

 万里がパチンッと指を鳴らし―――瓦礫で埋まっていた景色が色とりどりの花畑と晴れ渡る青空に変わる。
 大規模な幻影魔法に花名は目を見開いた。
 魔法が解けて、花名のピンクの衣装はいつもの上下黒のジャージに変わっていた。髪も通常のショートカット。

「これは―――」

「雰囲気に流されてくれないかなーていう、ボクの打算的な感情による心象的なナニか」

「?」

「ねえ、花名」

 ちょっとは脈があるって思ってるから。
 ここ一番の魔法をかけて。かけられて。

 左手を手にとって、その指先に触れるだけのキスをして。

「ボクのお嫁さんになってくれる?」

 作り笑顔を取り外して、真剣な顔で見上げると。

 

 

 

 

 若くして【世界魔法少女協会】の会長になったその青年はこう語る。

 瞬間、茹でダコのようになった彼女は無意識に魔法少女の力を暴発させてその空間から逃げ、その後一週間消息不明になり何故かボロボロになって彼の元にやってきてこう告げたという。

 
「婿にこい!」

 


 

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