化師讃歌


 

 この男は、詐欺師に向いている。と思う。


「君って、どうでもいい話をさも重要な話であるかのように仕立て上げて収束させるのがうまいよね」

「えへへ」

「ほめてないから」

 ほめてないから。
 誰がほめようか、誰が。
 人好きのする、どこにでもいるようでいないような男をわたしは胡乱気に見た。
 今日もまたこの男は面倒な騒動を引き起こしたのである。

「でも会長。ぼくは見ていたものを、聞いたものを正確に伝えただけですよ」


 二人の男女がいた。
 ただの男女ではない。
 男の方は教師であったし、女の方は教え子であった。
 もちろん周囲には秘密で付き合っていたのだが、一番の誤算はこの男と遭遇してしまったことだろう。

 週末の休みの早朝、この男はのんびりと散歩に出かけている際にあるカップルと鉢合わせた。
 あるホテルの前で。
 顔見知りだったので男は笑顔で挨拶をする。教師は慌てふためく。女は青ざめる。
 教師は「ここで会ったことは他言無用だ」と言い渡した。彼は「わかりました」と承った。

 翌日、月曜日。教師は呼び出される。不純異性交遊についての是非を問われた。バレたのだ。
 共に呼び出された女はどうにかごまかそうと考えた。そうしてさらに呼び出されたのが男だった。

「君は、彼らに外で会ったことはあるかね」

 言外に知っていることを言いたまえ、という問いにこの男はこう答えた。

「会ったことはありますが、言えません」

 嘘は言っていない。
 嘘を言う気もない。

「約束しましたから」

 どこまでも正直に。
 どこまでも歪曲に。

 そうして話はさらに複雑にこんがらかっていった。
 無関係の生徒会にまでその余波が来るくらいには。

「詭弁だな」

「そうでしょうか。ぼくは約束を守りましたし、聞かれたことに答えただけですよ」

「それが詭弁だと言ってるんだ」

 人畜無害そうな顔をして、人間関係を破滅させたことは数知れず。
 無邪気にも見えるが、それにしては的確に崩していく姿はおそろしい。
 中学、高校と妙にくされ縁が続いてその度に見たくもない現実を見せられた。
 この男のせいで軽く人間不信に陥りそうだ。

「そういえば会長」

 頭を抱えていれば、にこにこと会計の仕事をしながら男は笑いかけてくる。

「今日は放課後に先生に呼び出しされませんね」

「そうだな」

 そういえば、そうだ。
 最近、とみに社会科の教師に呼び出されては手伝いやらなにやらをやらされていた。
 おかげで生徒会の仕事が連日たまってしまい、しかたなくこの男を呼び出してこき使っているわけである。
 あの社会科教師、偶然を装ってすれ違い様に尻を触ったりしてくるので気持ちが悪い。どうにかして証拠を集めてやろうとはしているのだが。

「あと少し、ですね」





 翌日、数名の教師が同時に解雇された。その中にはあの社会科教師の名もあった。

「…まさかな」

 いつの間にか自分の都合のいいように物事を動かす男を見ながらわたしは乾いた笑いを漏らしたのだった。

 


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