上論定理


 

 本来「いい女」にお似合いなのは「いい男」のはずである。


「嫌よ!」

 どうしてそうなるのだろう。
 わたしのクラスメイトで、学園一の美少女と名高いあの子。
 容姿が整っていて、勉強もできて、スポーツも万能。もちろん教師受けもよく友達もたくさん。
 親もお金持ちだと聞くし、同じ学園にいるお兄さんとお姉さんとも仲が良さそう。
 まさに順風満帆、才色兼備で向かうところは敵なし。

「絶対に嫌よ!」

 それなのに。
 どうしてあの子は「いい男」を選ばなかったのだろう。

 駅前のファーストフード店で逃したバスの次を待っていると、唐突にはじまった恋愛の別れ際。
 両方とも知っている人物だったのでガラス越しに観察してしまう。
 片方は、学園のマドンナ。
 片方は、学園の不良債権。
 わたしのクラスメイトと、ひとつ上の先輩。
 どちらも違う方向で有名人だった。
 元は野球のスポーツ特待生として入学したものの肩を壊して退部。その後は未成年の飲酒、煙草が見つかり停学を繰り返す問題児。
 他校の悪い友人とつるんでは補導され、女癖も悪いと聞く。
 母子家庭だとか、施設育ちだという噂もある。どちらにせよ奨学生ではあるようだ。

「別れよう」

 それだけを先輩は言い、あの子は泣いて追いすがる。

「嫌よ、絶対に別れない!」

 人目をはばからず、あの子は叫んで先輩は目をそらす。そしてその場に着いたバスに無言で乗っていく。
 あの子は置き去られ、泣き叫ぶ。子どもみたいに、大声で。
 ドラマならばここできっと「悪い男」に振り回された「いい女」は救われるんだ。
 わたしの目の前に座っているような「いい男」によって。

「ポテト食べる?」

 極上の蜂蜜のような、甘ったるくて色んなものを惹き付ける容姿は、生まれつき。
 お母さんはフランス人で、お父さんのお祖母さんはロシア人。そんな血が色濃く出た日本人とはおよそ思えない人形のような外見に色彩。
 声はまるで聞き馴染んだクラシック音楽のよう。隠れ声フェチのわたしが難点をあげられないほど。
 理事長の孫の、その中でもことさら優秀な「いい男」はわたしに自分の分のポテトを差し出してくる。

「ダイエット中なの」

 わたしはすげなく言うと空になったシェイクのストローを口に含んだ。
 本当は食べたいけど。財布の中はさびしいし、かといってちょうだいとも言えないし。

「今日一日くらいならいいんじゃないかな」

 まだ言うか。
 でも、そこまで言うなら。もらってあげてもいい、のかな。
 わたしに微笑む「いい男」にわたしは目を合わせないようにしてお礼を言う。

「ありがと」

 あの子はどうして「悪い男」を選ぶのだろう。

 わたしには、わからない。

 


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