女無差別


 

 上か下か、それが問題なのである。


「ジャージ着用を義務づける」

 教師のその発言に教室中が沸き立った。
 時刻は放課後。HRに決めるはずだった体育祭の特別委員と個別の種目決めがいくつか決まらずにここまで来ていた。

「暑いですよ!」

 この学校の体育祭は春ではなく秋に行われる。
 夏の日差しはなくなるが、それでもなお残暑は厳しい。
 手を上げて抗議をした男子生徒に担任は「忘れていた」と付け足した。

「女子生徒に限る」

 さらに阿鼻叫喚な状態になった。
 騒いでいるのは女子生徒よりも男子生徒である。

「何故ですか!」

「えー。去年の体育祭終了後のアンケートの結果だ。白いシャツだけだと透けるんだと」

 なにとは言わないが。

 その言葉に女子生徒は納得した。
 その言葉に男子生徒は絶望した。

 見えないエロというものがある。エロとは奥深いものなのだ。
 パンモロよりパンチラのほうが心が弾むだろう。
 最初から見えているものより、偶然見えてしまったものが崇高に感じる。そういうものなのだ。
 俗にラッキースケベともいうべきそれ。
 汗をかいた女の子のシャツが湿って体のラインを浮き彫りにする。虚乳な子も、巨乳な子も分け隔てなく。それは一種のイベントである。
 男子と女子の体育は別だ。運動場と体育館に分かれている。この学校にはプールはないので水泳の授業はない。
 よって、体育祭のみが男女共同作業。最初で最後の共同作業である。
 唯一、男子生徒が女子生徒の体を公に不躾に執拗に舐めるように見つめても犯罪にならない時であった。

「上も、下もですか?」

 悲嘆に暮れる男子生徒を横目に女子生徒のひとりが手を上げる。
 さすがにジャージの上下は暑い。

「どうだろな。上だけでいいんじゃないか」

 透けるのはシャツなのだから。

 その言葉に一部の男子生徒が生き返る。まるでゾンビのようにはしゃぎ回る。
 なにもすべからくの男子生徒が双山のふくらみに固執するわけではない。

「生足キター!」

 桃は上下にあるのである。さらに白い大根が好きなものもいる。
 大きければいいというものではない。好みはひとそれぞれなのだ。

「どっちかでいいなら、下だけでもありだろ!」

「差別、よくない!」

「断固抗議する!」

 胸派と尻派、けっして相容れないふたつの力がぶつかり合い―――そして決まったことは。



「ジャージ着用、男女どちらも。暑くても上下脱ぐなよ」

 職員会議によって無慈悲に断罪されたのだった。

 


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